冷媒基礎知識

冷媒とは?

エアコン,冷蔵庫,ヒートポンプ給湯機器内部でエネルギーを輸送するために循環している流体です.人間でいえば,血液にあたる非常に重要な物質です.

冷媒としては,主としてフルオロカーボン(炭素とフッ素の化合物)が用いられ,一般的にフロンと言います。フロンは1920年代に冷蔵庫用として開発され,当時は,夢の化学物質ともてはやされました.フロンの中でもCFC(クロロフルオロカーボン)とHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)がオゾン層破壊物質です。これらの物質を特定フロンと呼んでいます.HFC(ハイドロフルオロカーボン)は,塩素をもたないため,オゾン層を破壊しないため,特定フロンの代替物質としてその変換が進んできました.このため,HFCのことを一般に「代替フロン」といいます.しかし、代替フロンは二酸化炭素の数百倍~数万倍の温室効果があることがわかり,地球温暖化の原因になるとして問題となっています.このため,さらなる代替が求められ,以降で述べるキガリ改正によりその削減すら求められるようになっています.

冷凍空調用の冷媒の開発の歴史

当初の冷媒は当時の技術で気化、液化しやすく、大きな蒸発潜熱を持つ物質として エチルエーテル、エチルアミン、メチルアミン、に始まりジクロルエチレン、エタン、ブタン、プロパン、トリクロロエチレン、アンモニア、亜硫酸ガス、水等、あらゆる物質が提案検討された。
しかしこれらは
・毒性がある(エチルエーテル、アミン類、トリクロロエチレン、アンモニア)
・低圧が大気圧以下になる(エチルエーテル)
・強可燃性である(プロパン、ブタン、アンモニア)
 等の理由で淘汰されていった。

さまざまな冷媒の中で20世紀初頭までに生き残った冷媒は、アンモニア、CO2、メチルクロライド、エチルクロライドなどである。
しかしこれらの物質も毒性、可燃性、性能、経済性などの理由で課題が残り、新しい冷媒の開発が期待されていた。
これらを払拭した夢の物資が1930年に登場した。
これがフロン冷媒である。
フロンは化学的、熱的に極めて安定で、且つ不燃性で冷媒として優れた性能を有していたため、開発当時は「20世紀の夢の化学物質」としてもてはやされた。

フロンの誕生

1920年代、米国の冷蔵庫メーカーフリッジデール社の親会社であったゼネラルモーターズ社 (GM) は、傘下のゼネラル・モーターズ・リサーチ・コーポレーションのチャールズ・ケタリングやトマス・ミジリーらに、アンモニアの代替となる化学物質の研究を命じた。
1928年、GM はフロン12の開発に成功し特許を取得、1930年から GM はデュポンと共同でキネティック・ケミカル・カンパニー (Kinetic Chemical Company) を設立し、「フレオン」という商標でR11,R12の生産を開始した。
日本では1938年、米海軍機関誌を見た太田海軍少尉の進言により現ダイキンで自主開発し大型潜水艦イ171号(1400t)に搭載したという記録がある。

フロンとは

炭素と水素の他、フッ素や塩素などのハロゲンを含む物質の総称で、フロンという呼び方は、日本でつけられた俗称である。
一般にはデュポン社の商品名であり、商標のフレオン (freon) で呼ばれることが多い。
フロンは化学的、熱的に極めて安定で、且つ不燃性で冷媒として優れた性能を有していたため、開発当時は「20世紀の夢の化学物質」としてもてはやされた。

フッ素の科学的特徴

冷媒番号のつけ方

冷媒番号は,アメリカ冷凍空調学会(ASHRAE)のStandard 34で定められた冷媒の種類を表す番号である(ISO817も同様の基準を採用).

R 千の位 百の位 十の位 一の位 付加記号
・千の位 炭素の2重結合の数。環状化合物の場合は大文字のC
・百の位 0~3 炭素数4までのフロン類と炭素数3までの炭化水素(R50, R134a, R170,R290,C318)
百の位:炭素数-1
十の位:水素原子の数+1
一の位:フッ素原子の数
4 非共沸混合冷媒(R410A, R452B, R454B)
加記号:組成での認定番号(大文字のアルファベット)
5 共沸混合冷媒(R514A)
十、一の位:冷媒の組み合わせでの認定番号
加記号:組成での認定番号(大文字のアルファベット)
6 その他の有機化合物(R600a)
十、一の位:炭素数-4
付加記号:異性体記号(小文字のアルファベット)
7 その他の無機化合物(R717, R729, R744)
十、一の位:分子量
付加記号:異性体記号(小文字のアルファベット)
※ただし,分子量が100より大きい場合には,7は千の位とする

例:
R290(プロパン,C3H8):炭素数2+1=3, 水素数9-1=8, フッ素数0
R717(アンモニア):分子量17

冷媒の種類

下表には,冷媒として代表的なCFC,HCFC,HFC系のフロンが示されています.この系列のフロンにも様々な種類があり,それぞれの冷媒には冷媒番号が付記されています.この表を見ていただくと,CFC,HCFCからHFCになり,オゾン層破壊係数(ODP)は,0となりましたが,地球温暖化係数(GWP:CO2を1とした時の相対値)は相変わらず大きな数字であることが分かります.

※フィガロ技研株式会社ホームページから引用

このため,更なる冷媒転換が求められ,現在では,HFO(ハイドロフルオロオレフィン)や改めて自然冷媒に注目が集まっています.これらの冷媒の多くは微燃性を有するため,その対策が急務となっています.冷媒には,一長一短があるのが現状です.

※空調用冷媒の動向 NTTf総研 内海

機器の動作原理

エアコン,冷蔵庫,ヒートポンプ給湯機はすべて同じ動作原理で駆動されます.図1には,一例としてエアコンが冷房を行っている状態を示しています.まずは,この運転状態をもとに動作原理を説明します.熱交換器としての蒸発器と凝縮器,外部の動力によって駆動する回転機械としての圧縮機,膨張弁を基本的な構成要素としています.室内機には,蒸発器が内蔵され,室外機には,凝縮器,圧縮機,膨張弁が内蔵されています.これらの構成要素は,配管で接続され冷媒が流動しヒートポンプサイクル(冷凍サイクルとも言います)を形成しています.冷媒は,大気圧よりも高い圧力状態でも5℃程度で蒸発したり,30℃ぐらいでも液化したいすることができるものとなります.

 低温低圧の冷媒蒸気①は,圧縮機に流入し,ここで加圧されることにより,高温高圧となります.この圧縮機を駆動するのに必要な電力がエアコンの駆動源となります.

圧縮機を流出した高温高圧の冷媒②は,凝縮器に流入します.凝縮器では,高温側流体(ここでは外気)が冷媒より温度が低いため,冷媒から高温側流体に熱が伝わり,冷媒は冷やされ,冷媒ガスは,凝縮(液化)します.高温側流体は,熱を得て加熱されています.

凝縮器を流出した高温高圧の凝縮液③は,膨張弁を通過します.膨張弁は,小さな穴であり,ここを通過すると冷媒は,低温低圧となります.これは,ちょうどスプレーにおいて流体が高圧の内缶から圧力が低い外部に放出されるときに冷やされるのと同様の原理です.

この低温低圧の冷媒は④は,蒸発器に流入します.蒸発器では,この低温低圧の冷媒がその温度よりも高い低温側流体(ここでは,室内空気)と熱交換を行うことにより,低温側流体から冷媒に熱が移動します.

これにより,冷媒は熱を得るため,加熱され,蒸発し,その潜熱により低温側流体を冷却することになります.これを繰り返すことでサイクルが成立しています.暖房時には,内部の流動方向を切り替えることにより,室外機の熱交換器が蒸発器,室内機に設置された熱交換器が凝縮器の役割を果たすこととなります.これにより,室内機で熱をもらった高温の空気が室内を循環することとなります.ヒートポンプ給湯機では,水が熱をもらって温水が取り出されることとなります.

www.athome.tsuruga.fukui.jp

地球温暖化問題

地球温暖化が深刻な問題となっています.二酸化炭素をはじめとした温暖化物質によって地球の温度が確実に上昇しています.1906年から2005年の100年間で0.74℃上昇しています.これにより,北極や南極の氷が解け,海面が上昇します.海抜が世界で最も低い国の一つであるツバルでは,国家消滅の危機にすら直面しているといわれています.

様々な自然災害がもたらされています.洪水や旱魃,酷暑やハリケーンなどです.もちろんもともとあったことではありますが,その規模が大型化し多くの人命も奪われています.

このような地球温暖化を防止すべく世界では,2050年までに地球の温度上昇を2℃以下に抑えるためには,地球温暖化物質の排出量を現在から50%削減することが必要だとされています.

地球温暖化物質の代表格は二酸化炭素です.しかし,フロン類は,その数千倍もの地球温暖化効果(GWP)があるとされています.このため,その削減を急いでいるわけです.2036年までにはフロンの中でも現在主として使われているHFC系を先進国で85%も削減をしなければなりません.

これが,この冷媒情報発信サイト「W-Refrigerant.com」を立ち上げ,皆さんにその正確な情報をお伝えすることに至った背景となります.

アサヒ飲料ホームページより

オゾン層破壊問題

オゾン層は,大気圏の上層にある,オゾン(O3)の密度が高い層のことです.太陽光線に含まれる有害な紫外線を吸収して,地球の生命を守る役割を果たしています.

1970年代から80年代にかけて,南極上空のオゾン層が破壊され,穴(オゾンホール)ができていることが発見されました.破壊が進むと,強い紫外線がオゾン層に吸収されずに地表に届くため,皮膚がんの原因になったり,生態系にも悪影響を及ぼしたりするとされています.

ではなぜオゾン層は破壊されてしまったのでしょう?実はその原因が,当時エアコンや冷蔵庫の冷媒,スプレーの噴射剤,プリント基板の洗浄剤など,多くの用途で利用されていた冷媒のひとつの種類であるCFC系冷媒であると指摘されたのです.オゾン層破壊は,CFC系冷媒に含まれている塩素がオゾンを分解してしまうことが原因だったのです.

もともと冷媒が大きな社会問題となったのは,このオゾン層破壊が原因だったのです.その後CFC系冷媒は代替冷媒としてのHFC系冷媒に置き換えられてきました.

しかし,そのHFC系冷媒は地球温暖化物質であることが分かり,二酸化炭素の数千倍もの温室効果があることが分かりました.ですから,現在は,冷媒の問題は地球温暖化問題となっているわけです.

兵庫県フロン回収・処理 推進協議会ホームページより

地球温暖化のメカニズム

我々が住む地球の平均気温は15℃ですが、これは地球に大気があり温室効果があるためです。もし大気が無く温室効果が無いとすると地球の温度はマイナス18℃となり生物が住める環境ではありません。
金星は分厚い大気に覆われているので460℃の高温になっていますが、もし金星に大気が無いとすると図の様にマイナス50℃になってしまいます。

日本冷凍空調工業会の講演資料から

宇宙に浮かぶ地球(黒体球)の平衡温度については次の様に計算することができます。

地球が太陽から受けるエネルギーは  S×πr・・・(1式)
地球が宇宙に放出するエネルギーは  σ×4πr2 ×Te4  ・・・(2式)
ここで S :  太陽定数  S=1.366Kw/m2
σ :   ステファン・ボルツマン定数  σ=5.67×10-8Wm-2K-4
Te :  地球の表面温度
r : 地球の半径
とすると

太陽から受け取るエネルギーと宇宙に放射するエネルギーが平衡するので
反射を考えなければ (1式)と(2式)は等しくなり
S×πr =σ×4πr2 ×Te4 と表せます
これを計算すると  Te= S×πr / σ×4πr2 = S / σ×4 となり
Te=278K(5℃)ということになります

太陽系の他の惑星と比べると地球がいかに恵まれているかが分かります
次の表は太陽系の惑星の平衡温度を計算したものです

天文単位とは地球と太陽の平均距離で1AU=1.496×1011 m
                          国立天文台 理科年表から

しかし実際は太陽のエネルギーは雪や雲、海などで一部は反射されます。
月が明るいのは太陽光が表面で反射されているからです。
これをアルベト係数と言い、場所によって反射係数は異なりますが、平均すると約30%が反射しているのです。
S×(1-A)πr =σ×4πr2 ×Te4   Aはアルベド係数で平均で0.3(30%)
これを計算すると地球の温度はTe=255K(-18℃)となります

月が明るいのは太陽光が表面で反射されているからです。

これをアルベト係数と言い、場所によって反射係数は異なりますが、平均すると約30%が反射しているのです。

これを考慮して計算すると

S×(1-A)πr =σ×4πr2 ×Te4   Aはアルベド係数で平均で0.3(30%)

これを計算すると地球の温度はTe=255K(-18℃)となります
(参考 金星はこれを考慮すると-50℃となる)

しかし実際の地球の平均気温は15℃ですがこれはなぜなのでしょうか。
地球には大気があり、この影響ですべてのエネルギーを宇宙には放射していないで地表に向けある比率で再放射しているからなのです。

下記の式のBはこの宇宙に放出する比率で61%と仮定し、これらの2つの条件を考慮すると

平衡式は S×(1-A)πr =B×σ×4πr2 ×Te4 となり
これを計算するとTe=288K(15℃)となります。
これは現在の地球の平均気温で、生物の環境としては理想的な値です。

参考 (金星はこれらを考慮すると460℃となる)
( 注)資料によっては地球表面温度については、有効数字の取り方で
   それぞれ -19℃、14℃としているものもあります

この熱平衡を図式化すると下記のようになります
地球は大気の温暖化影響のおかげで生物の生存に適した環境になっているのですが
もし大気が無ければ地球の温度は-18℃となり生物が住める環境では無くなります。

下記の図は地球全体のエネルギー収支を表したものです

大気反射の温暖化影響

大気の Co2 やメタンが増加しこの放射比率が減少すると地球の温度は上昇します。
左のグラフは地球への再放射率と平均気温の関係で、放射率がわずか1%変化しただけで
平均気温が2℃上昇すると大規模な環境変化が現われることがある

また地球からの反射には氷河が寄与していますが、温暖化の影響で氷河が減少すると大気反射が弱まり温暖化が加速すると言われています。

新たな温暖化影響指標(GTP:Global Temperature Change Potential)について

現在フロンの温暖化影響を表す指標としてGWP(Global Warming Potential)が使用されています。
地球温暖化係数(GWP) とは、二酸化炭素を基準にして、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるか表した数字のことです。単位質量(例えば1kg)の温室効果ガスが大気中に放出されたときに、一定時間内(例えば100年)に地球に与える放射エネルギーの積算値(すなわち温暖化への影響)を、CO2に対する比率として表したものですが、GWPの計算方法については、まだ世界的に統一されたものがなく、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも毎回数値が変わっています。
冷媒として用いられているフロンはこのGWPが高いものが多く、その削減が求められています。しかしGWPは赤外線を吸収する能力のCO2に対する単なる比率であり実際の自然界での温暖化影響をそのまま表すものではないと言われています。

IPCC第5次評価レポートでは第8章でHFCなどの人工的なガスについて議論し気候変動影響の新たな指標として地球温度変化係数(GTP:Global Temperature Change Potential)と言う概念が示されています。
GWP は 赤外線を吸収する能力の相対値であるのに対し、GTP は 世界平均気温を上げる能力の相対値として示されています。
地球の温度変化は、赤外線吸収能力とは直接比例関係になく,特に短寿命物質では、GTP 値とGWP値は 大きく異なります。
GTPは、気候の応答性や大気と海洋の熱交換を考慮することにより、GWPに比べより深い物理的なプロセスを考慮したものになっています。また、GTPは深海のゆっくりした応答を考慮に入れることにより、排出された温暖化物質の大気中濃度の寿命による減衰時間の範囲を越えた長期にわたっての温暖化影響を考慮するものです。従ってGTPは対象とする化学物質の大気中での適応時間と気候システムの応答時間の双方を含んだものになるのです。
海洋の応答をGTPの中に取り込むことはGTPの値に非常に大きな影響を与えるので、その特性をどのように評価の中で想定するかも、評価の単純さと得られる結果の精度との間のトレードオフ関係を表すものとなります。

IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change   気候変動に関する政府間パネル
GTP :Global Temperature Change Potential      地球温度変化係数
GWP : Global Warming Potential           地球温暖化係数

次の表はGWPの値とGTPの値の比較を占めしたものです
これによるとFS6やPFC14などはGTPの方が大きな値になりますが、R32やR134aなどはかなり小さくなる事が分かります。

日本冷凍空調工業会の資料から