1.背景
エアコンは時々刻々と変化する気象条件や室内空調負荷に対応して運転しています。しかしながら、JISをはじめとする国際規格は圧縮機の回転数が一定の、定常状態における運転データに基づいているため、実運転性能と乖離していることがさらなる省エネの実現において課題となっています。
このような「動的な」実運転性能を正しく評価するには、実際の建物と同じ空調負荷特性を持っている試験設備が必要です。つまり、空調機の運転による建築躯体や室内空気の温度・湿度の変化を、試験設備と実際の建物とで同じにしなければいけませんが、これは不可能といえます。
本研究では、ソフトウェアで計算した空調条件を試験設備側に再現(エミュレート)させることで、実際の建物を想定した空調機試験を実現する方法を考案しました。
空調機の実際の運転状況と、それを再現するエミュレータ式試験設備
2. 試験設備の概要
試験設備は、室内機試験室および室外機試験室、さらにそれぞれの試験室の環境条件を制御する条件発生器で構成されます。
室内機試験室のエアフロー
室外機試験室のエアフロー
設備は、次世代の低GWP冷媒である可燃性冷媒に対応した防爆構造を備えており、冷蔵ショーケースの試験も可能です。また、JIS B 8631-2: 2011に基づいた横風(0.2 ±0.1)m/sの条件を作ることができます。風量測定は、4つのノズルを組み合わせて行い、測定された吹出空気の状態は、エミュレーターにも送られます。空気は条件発生器で所定の温湿度が生成され、壁面から横方向に均等に吹き出されます。
室外機室にも測定チャンバーが設置されていることも本試験設備の特徴のひとつです。室外機からの吹出空気はこの測定チャンバーに送られ、温湿度および風量が測定されます。建物負荷や熱容量等の条件に基づき計算されたエミュレーター出力結果をもとに、条件発生器で所定の温湿度が生成され、再び室外機に送られます。
3. 結果概要
・開発された試験装置の静的健全性を確認するために、取得したデータを日空研原機データと比較しました。その結果、誤差は3%以内であり、十分な精度で性能評価が可能であることが確認されました。また、日空研からの準認定を取得しました。
・試験装置の動的健全性を検証するために、i) エミュレーターの計算時間遅れ、ii) 条件発生器での温湿度追従性、iii) 各種センサーの時間遅れを詳細に分析しました。その結果、熱的遅れは部屋の熱的時定数の1%程度であり、機器の動特性に大きな影響を与える因子はありませんでした。物質的遅れは、部屋の物質的時定数の10%程度です。
・動的性能評価の結果、例えば負荷が25%になると断続運転状態となり、室内温度が変化することで外壁からの侵入熱が変化し、部屋の空調負荷も変化することが分かりました。また、断続運転は建物の大きさが変更されると運転状態が変化し、空調機の制御によっては部屋の大きさによってエアコンディショナの断続運転性能が大きく異なる可能性があることが示唆されました。
・提案された装置では、エミュレーターを使用して「建物の空調条件」を簡単に変更できます。これにより、エアコンディショナの性能評価時に試験室の物理的な大きさに左右されることなく、公平で再現性のある試験を実施できます。また、エミュレーターを使用することで、エアコンディショナの試験の規格化にも対応できます。