ヒートポンプ用途の冷媒の未来

NPO法人環境エネルギーネットワーク21主任研究員 石橋直彦

産業界やその他の分野は、現在主に化石燃料ボイラーに頼っている加熱プロセスも含め、脱炭素化の解決策を模索中である。 需要負荷に対応するためにヒートポンプ技術を導入して加熱の電化に移行することは、複雑になる場合がある。 環境への害が少なく (GWP が低い)、人体への影響が少ない (安全性が高い) 適切な作動流体、合成または自然冷媒を選択することは、世界中で議論されており、2030 年までに解決を求められている。この問題を解決するため 欧州の R32 や米国の R454B などの低 GWP 値の短期的な合成冷媒を導入することで対策を講じられてきた。 この記事では、どの冷媒が冷暖房システム での使用に適しているか、及びそれらが環境に与える影響についての議論がまとめられている。

温度要因は機器の成績係数 (COP)と体積効率に影響を与え、また、化学的特性は環境と冷媒の選択に重要な影響を与える。 この記事では、冷媒の化学構造に塩素原子を追加するとオゾン層破壊係数の値が増加し、水素原子が増加すると冷媒の燃焼速度が上昇し、フッ素原子が増えると地球温暖化が促進されることをわかりやすく図解した要素の三角形 (冷媒の選択)(図1) に基づいて説明している。

図1 要素の三角形(冷媒の選択 )

記事によると、合成冷媒の適切な選択に影響を与えるもう一つ問題はペルフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質 とそのサブグループであるとしている 。 経済協力開発機構 (OECD) [OECD 39] は、2018 年に発行されたリスク管理レポートで 4700 を超える物質を PFAS として特定した。このレポートでOECDはPFAS の共通の定義を満たす新しいグループを規定したが、そのグループにハイドロフルオロカーボン及びハイドロフルオロオレフィン冷媒が含まれる。 これらの冷媒が大気中で分解すると、PFAS のさらに別のサブグループであるトリフルオロ酢酸が生成される。このメカニズムについては、当冷媒情報発信サイトW-refrigerant.comに2022年3月に掲載した記事が参考になるので一読いただきたい。

本稿で紹介する記事は、IEAによるヒートポンプ技術共有プログラム(the Technology Collaboration Programme on Heat Pumping Technologies by IEA)及びヒートポンプセンター(Heat Pump Centre)の以下のウェブサイトからダウンロードできる。
この記事では、上述の情報のほか以下に示す有用と思われる情報が記載されている。

  • IPCC組み込まれたマルチガスアプローチ(1)を実施する指標として採用されたGWP100年値
  • 100年値と20年値の比較
  • 総等価温暖化影響(TEWI)、ライフサイクル気候パフォーマンス(LCCP)

https://heatpumpingtechnologies.org/publications/the-future-of-refrigerants-for-heat-pump-applications/

【参考】
(1)マルチガスアプローチ(Multi-gas approach)
数種類ある温室効果ガスの総排出量を、係数を使って合算する方式で、京都議定書で用いられることになった方式。京都議定書では6種類の温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、HFC類・PFC類・SF6)について削減を図ることとなり、数値目標を定めたが、その排出量を算出するに際し、ガスごとの実際の排出重量ではなく、二酸化炭素以外のガスの排出量を、地球温暖化係数(GWP)を使って二酸化炭素等価排出量で算出する。
バスケット方式(バスケットアプローチ)とも呼ばれる。

出典:一般財団法人環境イノベーション情報機構

以上