日本のフロン類規制の変遷と課題

一般財団法人日本冷媒・環境保全機構

専務理事 作井 正人

20世紀最大の発明の一つと言われるフロン:CFCが発明され、それまでの有毒な冷媒から解放され世界的に冷凍空調機器は大きな進展をみせた。また、CFCはその特性から洗浄剤として製造現場などで大量に消費されていた。ところが、1974年頃に初めてローランド教授によるオゾン層の破壊のメカニズムが発見され、1987年にオゾン層を破壊する塩素を含む冷媒フロン類である、CFC、HCFCを削減するモントリオール議定書が採択された。 このような、国際的な動向により、国内では1988年にオゾン層保護法が成立した。そしてCFCは先進国で1996年に全廃、HCFCは段階的削減を経て2020年に先進国で全廃となる。

日本では、オゾン層を破壊しない塩素を持たない冷媒であるHFCを官民一致で他の先進国と比べて10年も早く導入した。環境規制から逃れることのできる究極の冷媒との願いを込めてなのかこのHFCの名称を“代替フロン”とした。

IPCCでは、持続性ある社会を実現するために、世界の平均気温の上昇を産業革命以前から2℃未満に抑える必要を指摘している。1995年5月に気象変動枠条約がニューヨークで合意され、1995年4月第1回締約国会議(COP1)がベルリンで開催され、地球温暖化対策の検討がスタートした。2年後の1997年12月第3回締約国会議(COP3)が京都で開催され、温室効果ガスの排出量の削減目標に法的拘束力のある「京都議定書」が採択された。この「京都議定書」が対象としている温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素(一酸化二窒素)、HFC、PFC、SF6の6ガスである。したがって、この究極の冷媒だと思っていたHFCにも排出抑制の規制がかかり、そして2019年1月1日より日本が“キガリ改正”に批准したことで生産の規制も科されることになった。

国内のフロン類対策の法律としは、家庭用エアコン、冷蔵庫に対しては“家電リサイクル法”で廃家電からのフロン類の回収、自動車に関しては“自動車リサイクル法”である。一般的に機器に入っている冷媒量が多い業務用機器に関しての法律は2002年に「フロン回収破壊法」が施行され、この度3回目の改正がされた「改正フロン排出抑制法」が2019年6月に公布された。2015年4月施行の「フロン排出抑制法」では、使用時の冷媒漏えいに主眼がおかれたが、今回の改正ではそれに加えて機器廃棄時の確実な冷媒回収を目指している。そして、この法律改正で初めて違反者には“直接罰”の導入がされた。

今回の法改正で直接罰の導入がされた理由の一つとして、国民のフロン類の漏えいに関心が低いことがある。オゾン層が破壊されて、皮膚ガンや白内障への危険性が増した時期は国民も企業も“冷媒漏えい”には関心が高かった。しかしその後、“代替フロン”と名乗ったフロン類を使った機器が上市されるようになってから、国民の多くが“フロン”は世の中から無くなったと思うようになったことも一因だろう。そして企業も“代替フロン”が温暖化物質として管理が要求されていても、環境報告書やCSRレポートではエネルギー起源のCO2排出削減への関心の方が高いという現実があるのが課題である。一方、次世代冷媒の開発にも大いに期待はされるが現在稼働中の冷凍空調機器はその冷媒の殆どがHFCであり、キガリ改正で冷媒の生産が規制される中、機器使用時の冷媒漏えい対策と機器廃棄時からの回収を確実に進め、回収冷媒を如何に再生して再利用することが重要となる。

2019.07.23
JRECO 作井 正人

URL : https://www.jreco.or.jp/

    略歴

  • 1979年 三菱電機株式会社 入社
  • 2001年 三菱電機株式会社京都製作所 応用機器製造部長
  • 2003年 Mitsubishi Electric Digital America(出向:Vice President)
  • 2006年 三菱電機株式会社 リビングデジタル事業本部 渉外部 担当部長
  • 2011年 一般財団法人日本冷媒・環境保全機構へ出向(専務理事)
  • 2014年 三菱電機株式会社 定年退職
  • 2014年4月~ 一般財団法人日本冷媒・環境保全機構(専務理事)

    研究分野

  • フロン冷媒の漏洩に対する環境への研究